41世紀の行方~未来遺跡からのメッセージ

今から約2000年前、イタリアのポンペイの町は火山の噴火によって一瞬にしてその姿を消した。私たちが生きている現代社会も同様の危機にさらされている。しかも現代は地震や洪水等の自然災害だけでなく、人的な災害ともいえる戦争やテロ、核やミサイル問題に加え、地球規模の自然破壊や環境汚染も深刻さを増している。そう考えると一見平和に見える私たちの生活はポンペイの時代よりも更に危険な時代の中にあると言える。では、2000年後の41世紀に私たちの現代社会が“化石”として発掘されたとしたら一体どうなっているのだろうか。私は近年、「2000年後から見た現代社会」をテーマに制作活動を続けている。

私がこのテーマで制作することになったきっかけは広島県福山市にある草戸千軒町遺跡との出会いである。鎌倉・室町時代に栄えたこの遺跡は、今から約300年前に大洪水で川に沈んでしまった(*1)という幻の集落だった。2003年には、広島県立歴史博物館でこの遺跡の出土品と私の作品とをコラボレーションする展覧会(*2)を行った。

今回のプロジェクトでは、草戸千軒町遺跡よりさらに古い縄文時代を代表する三内丸山遺跡(*3)と、そこに位置する青森県立美術館が舞台である。2000年後の視点から青森県立美術館~三内丸山遺跡を俯瞰し、「41世紀の“美術館と遺跡”」としてとらえることにより、様々な取り組み(*4)を行った。中でも特に印象深かったのは、三内丸山遺跡で行ったワークショップ「2000年後の未来遺跡を発掘しよう!」とその一連の作品群である。本物の遺跡内でのワークショップはロケーションも実にリアルで、まさに41世紀から現代を発掘しているかのようだった。完成した作品は、展示室の床に並べ「2000年後の未来遺跡」として公開した。そこはまさに41世紀の光景として、現代人の様々な営みを封じ込めたような静謐な空間となった。その後、この作品をアレコホールの壁面に設置した時、あたりの空気は一転した。シャガールの作品とともに生命を得て動き出し、混沌とした現代社会が凝縮した、まるでうごめく情念の様なものが感じられたのだ。壁面に設置することにより、この生命の躍動感に満ちた未来遺跡は、縄文土器の造形や棟方志功のモノクロの大きな板画(*5)作品のようにエネルギッシュであり、ミケランジェロが描いた『最後の審判』のように人類の行方を問うような作品となって、私の手から飛び立っていったのだった。

時代は繰り返すという。今回のプロジェクトを通して、2000年後の人々は意外に縄文時代のような生活を送っているのではないだろうかと感じられることが幾度もあった。つまり、将来何らかの事情で現代文明が一度滅び、人々は再び縄文時代からやり直しているのではないだろうかと。或は、人々は縄文時代から何かを学びとって未来に活かし、敢えて縄文的な生活を送っているかもしれないと。いずれにしても急速に発展した現代社会の窮屈さに比べ、縄文文化のおおらかさは、ある意味で現代よりも平和で豊かな時代であったのではないかと感じさせるのである。多難な現代を生きる我々にとって、縄文時代から得られるヒントは多く、未来への一つの方向性をも示していると言えよう。

歴史は過去、現在、そして未来へと続いている。2000年後を考えるということは現在を考えることでもある。このプロジェクトを通して、現在の位置を改めて認識し、今の時代に生きることの意味を考えてもらう契機として欲しい。私たちが、環境・教育・平和等の現代社会の諸問題に立ち向かう時、「2000年後の未来からの視点」と「縄文時代からの視点」の両方を持って、現代社会を眺めてみると思わぬ発想やアイデアが見えてくるに違いない。



*1 現在の研究では約500年前(室町時代後半)に衰退した説が有力

*2 「2000年後の冒険ミュージアム“川に埋もれた伝説の町~草戸千軒”と“現代の美術”展」。2000年後の視点で現代と草戸千軒町遺跡を同じ過去としてとらえ、歴史の重なりを表現した。また、ワークショップの参加者が約6,500人、市民や学生によるボランティアスタッフ約150人など、多くの人々で作り上げた展覧会。文部科学省の科学研究費補助金を受けて記録集を作成した。

*3 縄文時代前期から中期にかけて(約5500~4000年前)長期間にわたり定住生活が営まれた、日本最大級の縄文集落跡

*4 例えば、三内丸山遺跡とここからの出土品、青森県立美術館のコレクションや建築そのものを、いろいろな角度から柴川作品とコラボレーションすることにより、「41世紀」という視点を与えた。具体的な取り組みの詳細は、写真図版と解説文を参照。

*5 棟方志功は、版画を「板画」と称し、木版の特徴を生かした作品を一貫して作り続けた。

プロジェクト記録集 『柴川敏之|2000年後の未来遺跡』、2009.3、青森県立美術館

柴川敏之

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