大容量高速ネットワークとしての柴川敏之さん

〈2000年後の美術館☆プロジェクト〉にて、高知県立美術館を基点に高知の海岸線800キロを軽やかに駆け抜けた柴川敏之さん。疲れた素振りを一切見せず、朗らかに笑いながら東西に長い高知県内を苦も無く移動していく柴川さんのタフさは、それまで聞いていた彼の噂にまったく違わぬものでした。

相撲力士として培った実に肉体的な御姿とは裏腹に(失礼・・・)、時間や文明、風俗など様々な問題が内在する柴川さんの作品群には、いずれも深い知性と細やかなこころ配りが感じられます。作品にのみライトが当てられた暗くてシャープな当館でのインスタレーションでは、全方位に柴川さんのアイデアと工夫が凝らされ、思わず噴き出してしまうようなユーモアに溢れる仕掛けが随所に施されていました。このユーモアの存在が、彼の作品に設定した長大な時間の流れにリズミカルな鼓動を与えるのでしょう。また、他県でのプロジェクトと同じく当館の展示でも、一部県内他の文化施設が収蔵している民俗資料類等が併置されましたが、柴川さんが計った視点の微妙な角度調整によって、それら資料類には従来と違った表情が現れて、あたかも新たな生命力が吹き込まれている様に思いました。

そして特筆すべきは、このプロジェクトに参加した人々から上がった歓声です。高知県内の学校や文化施設、観光名所など、随所で今回のプロジェクトは実施されましたが、いずれも大盛況であり、柴川さんの回りは常に参加者の笑い声でいっぱいでした。とにかく大勢の人々をプロジェクトに巻き込んでいく柴川さんの引力の強さ。作品の魅力と面白さはいうまでもないのですが、その磁力の核はやはり柴川さんの朗らかな笑顔にあるように思います。

作品制作では古代から41世紀までの長き時間を易々と横断し、またプロジェクトにおいては各地の人々の縁を繋いで行く柴川さんという美術作家は、まさに“大容量高速ネットワーク”そのものであり、自らそのネット上をプロジェクトという大容量データを抱えて日々高速移動しているように思います。そしてそのネットワークは全国に向かって、今後ますます網の目のように広がり増え続けて行くことでしょう。

柴川敏之さん、南国高知でのひと夏、楽しくて濃密な時間を本当にありがとうございました。これからも柴川さんの益々のご活躍を期待しております。

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プロジェクト記録集 『柴川敏之|2000年後の美術館☆プロジェクト』、2009.3、高知県立美術館

松本教仁

高知県立美術館学芸課チーフ