「絵画」の可能性—来の視点で現代社会を考察

もし、絵画、例えば印象派の絵が2000年後に化石として発掘されたとしたらその時代の人々にはどう映るであろうか? あるいは、未来の人がこれらの錆び付いたような物体を発掘した時、それをどう捉え、どう解釈するだろうか?

そもそも、2000年後に絵画という概念自体が存在するのだろうか?

そんな途方もない未来への想像を掻き立ててくれる作品「出現Ⅱ.40041111」は、2000年後から現代社会を見る、見せる、考えるという「現代人の感覚」で捉えた「未来人の感覚」である。

柴川敏之の作品は2000年後の誰も想像のつかない未来からみた現代社会を捉えて行くというコンセプトで制作展開しており、福山市立女子短期大学で教鞭を執りながら個展を中心とした展覧会を精力的に開催する一方で、スケールの大きい、ダイナミックな視点でワークショップを展開している作家である。彼の作品は近年、インスタレーションを制作する作家としてのイメージが強いが、実は「絵画」から作家人生をスタートさせ、その意識や姿勢は今でも変わらない。

母校である広島大学の図書館の古びた壁面を擬人化させた油彩画を描いていた柴川は、福山に着任後に出会った草戸千軒町遺跡やイタリア留学時に観たポンペイの遺跡、原始絵画、フレスコ画等に影響を受ける。特に、天井や床などあらゆる場所に描かれた原始絵画を目の当たりにし、「絵画とは壁に掛けた四角いもの」という先入観が強い衝撃と共に一変したという。

身の回りの土、砂、貝殻、金属の錆などを顔料とし、蝋や膠、アクリル、卵黄、油等をメデュウムとした絵画的素材と手法を駆使して、歴史の層を意識しながら筆で塗っては乾かす行為を繰り返すことで凝った独自のマチエールが生み出された。それにより、画面は独特の形状で仕上がっており、抽象絵画を想起することも可能である。

「絵画」「平面」と言う視点からだけではなく、様々な角度から過去や現代や未来を考察したりイメージすることが可能な柴川の作品はまさに「絵画の可能性」を示唆していると言えるであろう。

展覧会カタログ 『VOCA展2005-新しい平面の作家たち-』、2005.3、上野の森美術館、(推薦文)

岸本和明

奈義町現代美術館 主任学芸員

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