絡み合った時間軸を読み取る

「2000年後から見た現代社会」を表現する柴川敏之。現代の日常品などを、2000年の時が過ぎてあたかも化石化した出土品のように見立てて制作する彼のスタイルは、私たちが博物館や遺跡を訪れた時の感覚を熟知し、時間軸という概念を明白に提示させてくれる。現代と大きく異なる建物跡や出土品を目の当たりにする私たちは、そのものに含まれた数少ない情報から、自らの想像力でもって当時の社会に思いを巡らせる。現在と過去の関係のみならず、歴史学では通常扱うことのない未来を同時に提示する表現が、彼の独自性の評価とされてきたと言えよう。彼の明確な時間軸の提案は、美術に関わりの少ない人々にも歴史を容易に実感できる世界へと導いてくれる。

今回のYOD Galleryでの展示は、これまでの柴川のスタイルとは一線を画した。彼の化石化された作品と本物の骨董品が大量にギャラリー空間内に並べられた。「2000年後の骨董市」は文字的な設定に過ぎず、これまでの過去・現在・未来のはっきりした3本の時間軸は存在しなかった。作品と骨董が隣り合わせになることにより、3本の軸は曲がりくねり、絡み合い、更には遺伝子のような無数の時間の糸が一つの幹を形成したような空間となった。

当展のキーワードとなった骨董。骨董は現在に見られないデザイン、そして時間に沿った劣化を見せ、私たちにとって明らかに過去という印象を与えるものである。しかしながら、ほぼ原形を保ち現在の生活においても実用に耐えられるものとして、日常に取り込むことの出来る現在性をも含むものである。すなわち、過去でも現在でもない、過去でも現在でもある、合理的な3本の時間軸が対応できないものなのである。柴川の作品と骨董が並列することにより、柴川の作品に込められたコンセプトを追い求めるのではなく、新たな時間の感覚を自らの内に見出すことが私たちの目的となったのである。これまでは柴川の2000年後という明白なコンセプト設定を頼りに作品の解釈を図ってきたが、今回はむしろ違った時間軸を私たち鑑賞者自身で見いださなければならなくなった。柴川が、初めて私たち鑑賞者を突き放した瞬間と言えるものとなった。

また作品と骨董両者が持つ複数の時間の定義、それらの組み合わせ方によって、多くの矛盾が提示された。柴川の作品としての現在の日常品よりも、すでに数百年経過している骨董品の方が新しく見えること。2000年後の設定にもかかわらず、今であることはもちろん、過去の世界にいる感覚にもとらわれる。

今が21世紀だという決定的な証拠は何一つこの空間に見いだすことは出来ず、一つ一つの違う作品や骨董を目の当たりにして小刻みなタイムスリップを繰り返した。ただ2000年後へ私たちの文明の総括を託すだけではない。近未来の想定や、明白な資料が残された近代を見直すこと、更には古代へ遡るまでの私たちの祖先がおこなった記録の断片を一つ一つ確認し読み取ることが、私たちの使命であり、柴川が表現する2000年後まで人類が生き延びるための「継承の保証」でもあるのだ。

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個展パンフレット 『PLANET ANTIQUES|2000年後の骨董市|柴川敏之展』、2011.7.30、YOD Gallery

山中俊広

YOD Galllery キュレーティング・ディレクター